業務支援システムはもう入れている。それなのに、支援員が閉所後に書類を書いている。管理者の残業も減らない。
この状態は、システムの選び方を間違えたわけではありません。システムが埋めているのは書類の「入れ物」で、時間を使っているのは「中身を考えて文章にする」部分だからです。ここは既存のシステムでは埋まりません。
そしてもう一つ、あまり語られない事実があります。その残っている工程は、新人とベテランの差が最も大きく出る工程でもあるということです。同じ支援記録を書くのに、慣れた職員なら数分、入って半年の職員なら何倍もかかる。しかも書き上げたものを児発管が直す時間まで発生する。書類の話は、実は育成の話です。
この記事では、放課後等デイサービスや児童発達支援の書類業務について、どこがAIで埋められて、どこは埋められないのかを整理します。実際に三重県の事業所向けに開発したシステムの中身、その設計で本当に狙っていたこと、費用と期間、個人情報の扱いまで書きます。判断材料として読んでください。
制度に関する数字(減算率など)はこども家庭庁の令和6年度障害福祉サービス等報酬改定によります。開発に関する数字はすべて弊社の実測値です。
システムを入れたのに書類が減らない、その構造
放課後等デイサービスや児童発達支援向けの業務支援システムは各社から出ていて、すでに導入している事業所も多いと思います。請求業務や利用者情報の管理、記録の保存といった部分は、こうしたシステムでかなり楽になります。
それでも書類の負担感が消えないのは、業務の流れを分けて見ると分かります。

| 工程 | やっていること | 業務支援システムで埋まるか | 経験差 |
|---|---|---|---|
| 01 考える | その子の様子を思い出し、支援の狙いを言葉にする | 埋まらない | 大きく出る |
| 02 文章にする | 保護者や行政が読む形の日本語に整える | 埋まらない | 大きく出る |
| 03 入力・保存・提出 | システムに入れる、印刷する、請求に回す | 埋まる | ほぼ出ない |
時間を食っているのは01と02です。ところが業務支援システムが担っているのは03です。入れ物は整っているのに、中身を作る作業が手つかずのまま残っている。これが「システムを入れたのに楽にならない」の正体です。
そして01と02は、支援員や児童発達支援管理責任者の頭の中で行われるため、外から見えません。だから改善の対象にもなりにくい。夜に残って書いている時間が、そのまま常態化します。
表の右端の列に注目してください。埋まっていない01と02は、経験差が最も大きく出る工程でもあります。ここが次の章の話です。
その文章は、誰が読むのか
先に押さえておきたいことがあります。なぜ、そこまで文章の水準が要るのかという話です。ここを飛ばすと「多少雑でも中身が合っていればいいのでは」という話になってしまいます。
理由は単純で、書いたものが事業所の中で終わらないからです。読み手が3つあります。

読み手01 保護者
連絡帳も支援記録も、家庭に届く言葉として読まれます。同じ出来事でも「拒否した」と書くのか「参加をためらう様子が見られた」と書くのかで、受け取られ方はまったく違います。
ここは事実の正確さと同じくらい、言葉の選び方が効く領域です。そして保護者との関係は、そのまま事業所の評判になります。
読み手02 行政(運営指導)
個別支援計画は、行政が中身を見る書類です。令和6年度の報酬改定で要求水準は上がりました。5領域(健康・生活/運動・感覚/認知・行動/言語・コミュニケーション/人間関係・社会性)の視点をすべて含めた総合的な支援を基本とし、個別支援計画で5領域とのつながりを明確にすることが求められています。あわせて、支援目標と具体的な支援内容の欄には本人支援・家族支援・移行支援を記載することとされています。
つまり「その子の様子を書けばいい」ではなくなりました。その支援が5領域のどこにどうつながるのかを、言葉にできることが要求されています。ここが、経験の浅い職員に一番書けない部分です。
読み手03 請求(国保連)
支援記録や個別支援計画そのものを国保連に送るわけではありません。送るのは請求のデータです。ただし、それらが整っていることが給付費請求の前提になっていて、不備は減算という形で請求額に跳ね返ります。
個別支援計画未作成減算がその代表です。適用されると、1〜2か月目は基本報酬の30%減、3か月目以降は50%減になります。しかも対象の利用者ごとに効いてきます。
| 読み手 | 何を見ているか | 不十分だとどうなるか |
|---|---|---|
| 保護者 | 事実が正しく、届く言葉で書かれているか | 信頼を失う。問い合わせと説明の手間が増える |
| 行政(運営指導) | 5領域とのつながり、本人・家族・移行支援の記載 | 指摘を受ける。是正対応に時間を取られる |
| 請求(国保連) | 計画が期限内に整っているか | 個別支援計画未作成減算。30%、3か月目からは50% |
この表が言いたいのは1つです。書類の質は、現場の気持ちや丁寧さの問題ではなく、信頼と、行政の評価と、収入に直結しているということです。だから「新人が書いたものはベテランが直す」という運用が必要になり、その直す時間がまた誰かの時間を食っていきます。
残っている工程は、新人とベテランの差が一番出る工程
入力・保存・提出の工程には、経験差がほとんど出ません。画面の項目を埋めるだけなので、慣れれば誰でも同じ時間で終わります。
ところが「考えて文章にする」工程は違います。ここはその事業所で何年書いてきたかが、そのまま速さと質になって出る領域です。

新人が遅いのは、書くのが遅いからではない
入って半年の支援員が支援記録に時間をかけているとき、手が止まっているのはタイピングではありません。止まっているのは「この事業所では、これをどう書くのが正解なのか」が分からないところです。
たとえば、子どもが活動を嫌がった場面をどう書くか。「拒否した」と書くのか、「参加をためらう様子が見られた」と書くのか。どちらが保護者に届く書き方で、どちらが行政の目線に耐えるのか。これは日本語の能力ではなく、その事業所の作法の知識です。
計画の側はもっと露骨です。前章のとおり、いまの個別支援計画には5領域とのつながりを明確にすることが求められます。目の前の子の様子は見えていても、それが「認知・行動」の話なのか「人間関係・社会性」の話なのかを言葉にするのは、経験がないとできません。ベテランは無意識に紐づけて書き、新人はそこで止まります。
だから新人は、書いては消し、先輩の過去の記録を探して真似し、それでも不安なまま提出します。時間がかかるのは当然です。正解の形を知らないまま、毎回ゼロから正解を推測しているからです。
その差は、直す側の時間として二重に出る
経験差の本当のコストは、新人が使った時間だけではありません。上がってきたものを直す時間が、児発管とベテランの側に発生します。
表現を直す。抜けている観点を足す。書き直しを依頼して、また待つ。この往復が、一番人手が足りていない層の時間を削っていきます。事業所全体で見ると、1件の書類に2人分の時間がかかっている状態です。
| 誰の時間か | 何に使われているか | 本来やってほしいこと |
|---|---|---|
| 新人の支援員 | 書き方を推測しながら書く。書き直す | 子どもと関わる時間を増やし、経験を積む |
| ベテランの支援員 | 後輩の記録を直す。書き方を口頭で教える | 難しいケースの支援そのものに時間を使う |
| 児発管・管理者 | 全員分の書類の確認と手直し。閉所後の残業 | 計画の判断、保護者対応、職員の育成 |
これまで差を埋める方法は、口伝しかなかった
では、この差をどう埋めてきたか。多くの事業所での答えは、先輩が隣で教える、過去の記録を見せる、書き方のマニュアルを作るのどれかです。
どれも正しいのですが、うまく回りにくい理由があります。教える側に時間がありません。過去の記録は探すのに手間がかかり、しかも書いた人によって水準がばらつきます。マニュアルは作った瞬間から更新されなくなり、実際の書き方とずれていきます。
そして福祉の現場は人の入れ替わりがあります。教えた人が辞めれば、また最初からです。差を埋める作業が、毎回ゼロからやり直しになる。ここが構造的な問題です。
この章で言いたいのは1つです。書類の時間を減らす話と、新人が早く独り立ちする話は、別の課題ではありません。同じ工程の、同じ問題です。
どの書類に時間がかかっているのか
書類とひとくちに言っても、性質がまったく違います。時間がかかるものと、かからないものを分けて考えてください。
| 書類 | 性質 | 時間がかかる理由 |
|---|---|---|
| 個別支援計画 | 判断が中心 | アセスメントから目標を立て、根拠のある文章にする |
| モニタリング記録 | 判断が中心 | 前回計画と実際の様子を突き合わせて評価を書く |
| 日々の支援記録 | 件数が多い | 1件は短いが人数分と日数分が積み上がる |
| 保護者への連絡帳 | 件数が多い | 同じ内容でも家庭ごとに書き方を変える |
| 会議録・研修記録 | 定型に近い | 形式が決まっているが、まとめる手間がある |
この表で重要なのは、「判断が中心」と「件数が多い」でAIの効き方が変わることです。件数が多いものは効果が読みやすく、判断が中心のものは慎重な設計が要ります。
新人育成の観点で先に始めやすいのは、件数の多い支援記録と連絡帳です。毎日発生するので手本に触れる回数が多く、覚えるのが速い。判断が中心の個別支援計画は、児発管の確認工程を厚くする前提で後から広げてください。
なお、必要な書類の種類や様式、保存期間は自治体や年度によって変わります。導入を考えるときは、必ず最新の運営基準と自治体の指定内容を確認してください。この記事では制度の解説ではなく、時間の使われ方の話をしています。
AIで埋められる部分と、埋めてはいけない部分
ここが一番大事な線引きです。福祉の書類は、全部をAIに任せてよい性質のものではありません。

埋められる。文章にする作業
支援員が現場で書いたメモや短い記録を、保護者や行政が読む形の文章に整える。ここはAIが得意です。
たとえば「今日は最初嫌がったが後半は参加、切り替え早い」という手元のメモから、支援記録の文章の下書きを作る。同じ内容を連絡帳の柔らかい表現に書き換える。この作業に判断は含まれていません。すでに支援員が判断した内容を、読める日本語に変換しているだけです。
ここを人がやっているのが、いま一番もったいない時間です。とくに新人にとっては、判断はできているのに書き方が分からないという理由で止まっている時間になります。
埋められる。過去の記録から材料を集める作業
モニタリングや計画の見直しでは、前の期間の記録を読み返します。数か月分を人が読み直すのは骨が折れますが、要点を拾って並べるのはAIに向いています。
ただし拾った材料をどう評価するかは人の仕事です。あくまで読み返す時間を短くするところまでです。
埋めてはいけない。支援の中身を決める判断
その子に何を目標として設定するか。どの支援が合っているか。保護者の意向をどう反映するか。ここはAIに決めさせてはいけない領域です。
理由は2つあります。1つは、AIはその子を見ていないからです。記録に書かれていない表情や場の空気を判断材料にできません。
もう1つは、個別支援計画は責任の所在がはっきりしている書類だからです。誰が判断したのかを説明できない状態にしてはいけません。AIが作った文章をそのまま計画にするのは、この意味で危険です。
だから設計としては、AIは下書きを出し、児発管が中身を確認して直してから確定する。この流れを崩さないことが前提になります。
| 作業 | AIに任せるか | 理由 |
|---|---|---|
| メモを文章に整える | 任せる | 判断は済んでいる。変換作業 |
| 同じ内容を別の相手向けに書き換える | 任せる | 表現の調整 |
| 数か月分の記録から要点を拾う | 任せる | 読み返す時間の短縮 |
| 目標を設定する | 任せない | その子を見ていない。責任の所在 |
| 支援方針を決める | 任せない | 専門職の判断そのもの |
| 保護者との合意形成 | 任せない | 関係性の仕事 |
実際に作ったもの。三重県の児童発達支援事業所の例
弊社が開発した書類作成支援システム「HIMA-WARI」の話です。三重県で児童発達支援を運営する事業所様向けに作りました。
最初に決めたのは「置き換えない」こと
ご相談をいただいた時点で、事業所ではすでに記録や請求を扱う業務システムが稼働していて、それ自体は問題なく回っていました。
ここで既存システムを置き換える提案をすることもできましたが、しませんでした。困っていたのはシステムそのものではなく、システムに入れる前の「書く」部分だったからです。
そこで、連携先システムには手を触れず、その手前だけをAIで埋める形にしました。支援員が書いたメモから書類の下書きを作り、それを人が直してから連携先システムに入れる。運用の流れはほとんど変わっていません。
12,543件の日報を読ませた。覚えさせたのは「この法人の書き方」
ここが開発の中心です。汎用のAIに書かせたのではありません。その法人がこれまで書いてきた文章を学習材料にして、その書き方を再現させています。
読み込ませた実物の量です。いずれも弊社の実測値です。
| 学習材料 | 件数 | 対象 |
|---|---|---|
| 過去の日報(サービス提供記録) | 12,543件 | 457名分 |
| 過去の個別支援計画 | 4,851件 | 744名分 |
| 過去の専門的支援実施計画 | 387件 | 77名分 |
在籍している児童のうち、97%はその子自身の過去の日報が手元にある状態です(個別支援計画は96%)。だから下書きは一般論になりません。その子について過去に書かれた記録を踏まえた文章が出ます。
実際に効いていることが分かった例があります。ある児童の計画を生成したとき、担当者が入力したメモには書いていない過去の実記録(活動名や具体的な取り組み)が引用されて、段階的な支援方法が組み立てられました。過去の記録を読んだ上で書いていることの証拠です。
あわせて、この法人の書き方のルールを14項目・約22,000字の「生成基準」として明文化し、AIに毎回渡しています。これは開発の副産物として、これまで誰も文章にしてこなかった事業所の書き方が、初めて読める形で残ったということでもあります。
同じ法人でも、施設ごとに書き方が違った
学習材料を読み込む過程で分かったことがあります。同じ法人の中でも、施設によって書き方がはっきり違いました。
| 施設 | 個別支援計画の文体 | 1項目あたりの分量 |
|---|---|---|
| ある施設 | 専門的な解説を厚く書く型 | 600〜900字 |
| 別の施設 | 要点を簡潔にまとめる型 | 150〜300字 |
3倍以上の開きです。どちらが正しいという話ではなく、その施設で積み上がった作法です。だから法人でひとつの型を作るのではなく、施設ごとに手本を出し分ける設計にしました。下書きを作るとき、その児童が通っている施設の過去の文章を優先して参照します。
この話は、他社のパッケージを入れたときに何が起きるかも示しています。汎用のテンプレートは、どの施設の書き方とも違う。だから毎回直すことになり、やがて使われなくなります。前述した「型を詰める工程に工数がかかる」というのは、こういう意味です。
AIに書かせすぎないための作り込み
ここが福祉分野で一番気を使った部分です。文章が上手に出ることより、出しすぎないことの方が難しい。実装した歯止めを具体的に書きます。
| 歯止め | 実際の動き | 狙い |
|---|---|---|
| 入力に無い事実は書かない | 情報が足りない項目は文章を作らず「情報なし(要確認)」と返す | それらしい創作を防ぐ。空欄は空欄のまま人に返す |
| 根拠が弱い箇所に印をつける | 生成と同時に「ここは根拠が弱い」「この行はこの項目に入れました(要確認)」と自分で指摘する | 直すべき場所が名指しで示される |
| 推測してよい範囲を先に決める | 狙い・保護者相談への対応案・気になる行動への対策の3つだけ提案を許可し、提案時は必ず「AIによる提案です(要確認)」と表示 | どこまでがAIの提案かを人が見分けられる |
| 生成回数に上限を置く | 1人の児童につき1日あたりの生成回数を制限 | 納得いくまで作り直す使い方=丸投げを構造的に防ぐ |
| 診断的な断定をしない | 検査数値や診断に踏み込む文章は生成しない | 専門職の判断領域に入らせない |
2つ目の「根拠が弱い箇所に印をつける」は、新人育成の観点で効きます。下書きのどこを確かめるべきかが、毎回リストで出てくるからです。新人が自分で見直す起点になり、児発管が確認するときも見る場所が絞れます。
3つ目は、開発の途中で事業所側と決めたルールです。当初は「入力に無いことは一切書かない」で作りましたが、実際に使ってみると、狙いや対応案までは提案してほしいという要望が出ました。そこで3つだけ例外を認め、その代わり提案には必ず印をつける形にしました。線引きは白黒で決めるより、こうして例外を明示的に並べる方が現場で回ります。
結果。書類の時間は約80%減った
弊社の実績値として、書類作成にかかる時間は約80%削減しています。ゼロから文章を考える作業がなくなり、直す作業だけが残ったためです。
この数字で注目してほしいのは、削減の理由が「入力が速くなった」ではないことです。考えて文章にする工程そのものを人がやらなくなったから減っています。パソコン操作が得意でない方にも同じように効くのはこのためです。
設計で本当に狙っていたのは、経験差を埋めること
ここが、この案件でいちばん伝えたい部分です。80%という数字は結果であって、設計時に狙っていたのは別のところにありました。
ここまで書いてきたこと、つまり12,543件の日報を読ませたことも、施設ごとに手本を出し分けたことも、生成基準を22,000字で明文化したことも、目的は1つです。ベテランが頭の中に持っていた作法を、システムの側に写し取ることでした。
この作業が終わると、何が起きるか。AIが出す下書きが、その事業所の「正解の形」そのものになります。新人が使っても、最初に画面に出てくるのは事業所の作法に沿った文章です。
つまり新人の仕事は、ゼロから正解を推測することではなくなります。目の前にある正解の形を見て、自分が見た事実に合わせて直すことになります。これは書類を早く仕上げる仕組みであると同時に、書き方を毎回見せてくれる仕組みでもあります。
| 型を渡す前 | 型を渡した後 | |
|---|---|---|
| 新人の作業 | 正解の形を知らないまま、毎回ゼロから推測して書く | 事業所の型の下書きを、自分が見た事実に合わせて直す |
| 新人が覚えること | 先輩が教えられたときだけ、断片的に覚える | 書類を書くたびに、事業所の書き方に触れる |
| ベテラン・児発管 | 表現の直しと書き直し依頼の往復に時間を取られる | 表現の直しが減り、支援の中身が妥当かの確認に集中できる |
| 人が入れ替わったとき | 教える作業がゼロからやり直しになる | 型は事業所側に残る。次の人も同じ水準から始まる |
最後の行が、経営として一番大きいところだと考えています。これまで人の頭の中にしかなかった書き方が、事業所の資産として残る。福祉の現場で人の入れ替わりが避けられない以上、ここを仕組みに移せるかどうかは効いてきます。
なお、新人の書類時間がどれだけ短くなったか、直す側の手間がどれだけ減ったかについては、弊社としてまだ数字で計測できていません。上に書いたのは仕組みとしてそうなるという設計の説明であり、実績値ではないことをお断りしておきます。実績値として出せるのは、現時点では書類作成時間の約80%削減だけです。
工数がかかったのは画面ではなく、2つの部分
開発費用の内訳として参考になると思うので書いておきます。この案件で時間がかかったのは、画面を作る作業ではありませんでした。
1つは書類の型を業務に合わせて詰める作業です。同じ「支援記録」でも事業所ごとに書き方の作法があり、そこに合わせないと結局は書き直しになります。ここは現場と何度もやり取りしながら詰めました。前章のとおり、この工程の丁寧さが、そのまま新人にとっての手本の質になります。
もう1つは個人情報を扱うための構成を固める作業です。福祉分野は扱う情報の性質上、ここを省略できません。詳しくは後述します。
減った時間は、どこへ行くのか
ここを決めずに導入すると、効果が実感されないまま終わります。時間を減らすこと自体は目的ではありません。減った時間が何に変わるのかを、先に決めておいてください。
行き先は、大きく3つあります。
| 行き先 | 何が変わるか | 向いている事業所 |
|---|---|---|
| 子どもと接する時間に戻す | 閉所後に書いていた分を日中の支援に回す。支援の質そのものが上がる | 本来の仕事に人を戻したい。支援の中身で選ばれたい |
| 残業を減らす | 人件費が下がる。職員の定着に効く | 残業が常態化していて、採用と離職に困っている |
| 受け入れ数や新規の相談に回す | 同じ人数のまま対応できる件数が増える | 断っている相談がある。増員が難しい |
弊社が最初に置くべきだと考えているのは、1行目です。放課後等デイも児童発達支援も、本来の仕事は書類を書くことではなく、子どもと関わることです。書類は、その関わりを説明し、責任を果たすためのものです。順番が逆になっている事業所が多すぎます。
とくに新人にとって、日中に子どもと接する時間が増えることは、それ自体が育成です。書き方が分からず机に向かっている時間は、経験が積み上がらない時間でもあります。書類の時間を減らすと、育つ速さの方が先に変わります。
2行目と3行目は、経営として説明しやすい行き先です。投資判断を通すときや、金融機関や補助金の申請で効果を説明するときは、こちらの数字を使ってください。3つを同時に狙う必要はありません。導入前に、どれを取りに行くのかを1つ決める。それだけで、入れた後の評価がぶれなくなります。
なぜ既存システムを置き換えない方がいいのか
「どうせ入れるなら全部まとめて新しくしたい」と考えたくなりますが、実務ではおすすめしません。理由は3つあります。
1つ目は費用が桁で変わることです。請求業務まで含めて作り直すと、業務の流れ全体を載せ替える規模になります。手前の下書きだけを埋めるのとは金額が違います。
2つ目は現場が覚え直しになることです。せっかく慣れたシステムを入れ替えると、書類は減っても操作の負担が増えます。福祉の現場は人の入れ替わりもあるため、覚え直しのコストは軽くありません。
3つ目は請求業務のリスクです。報酬請求に関わる部分は動いているものを触らないのが鉄則です。ここで不具合が出ると収入に直結します。
だから弊社は、既存システムがうまく回っているなら残すことを前提に提案します。埋まっていない部分だけを埋める方が、安く、速く、失敗しません。
つなぎ方の実際。連携用の窓口がない相手とどうつなぐか
ここは発注前に知っておくと役に立つ話です。福祉の業務支援システムには、外部とデータをやり取りするための公式な窓口(API)やCSVの取り込み口が用意されていないことがあります。今回の案件もそうでした。
この場合、選択肢は3つに絞られます。
| やり方 | 中身 | 判断 |
|---|---|---|
| 項目ごとにコピーして貼る | 下書きの各項目にコピーボタンを置き、人が既存システムへ貼る | 確実だが、項目数だけ手間が残る |
| 職員のブラウザから流し込む | 職員が既存システムの入力画面を開いた状態で、下書きを各欄へ自動入力する。保存ボタンは人が押す | 採用。手間が消え、最終確認は人に残る |
| サーバーから自動で送り込む | 業者側のサーバーが直接ログインして書き込む | 不採用。事業所の認証情報を業者が預かることになる |
3つ目を選ばなかった理由は、責任の分かれ目です。事業所のログイン情報を開発会社が持つ形は、何かあったときに誰の操作なのかを説明できません。弊社は既存システムへ直接ログインしない方針で作っています。
発注する側の実務としては、相談の段階で「いま使っているシステムに、外部から入れる口はありますか」と聞いてください。無い場合にどうつなぐつもりなのか、そこで業者の考え方が分かります。
個人情報の扱い。福祉で最初に決めること
ここを飛ばして進めることはできません。扱うのは子どもの障害特性や家庭の状況といった、最も慎重に扱うべき情報です。
個人のアカウントで使うのは避ける
支援員が自分のスマートフォンで無料のAIアプリを開き、そこに利用者の名前を入れて文章を作る。これが一番避けたい形です。事業所として何も管理できていない状態になります。
そして書類の負担が大きい事業所ほど、これは現実に起きます。困っている人が、手元にある道具で何とかしようとするのは自然なことだからです。禁止する前に、事業所として使える形を先に用意してください。この状態は福祉に限らず多くの会社で起きていて、シャドーAIと呼ばれます。詳しくはこちらの記事にまとめました。
名前を出さずに済む作りにする
設計の工夫として、そもそも氏名を外部に送らずに処理できる形にする方法があります。記録の文章化に必要なのは支援の内容であって、氏名そのものではないためです。
参考までに、今回の案件で実際に組んだ構成を書いておきます。
| 対象 | やっていること |
|---|---|
| 氏名・診断名・保護者情報 | システムの中に保存する時点で暗号化する。データベースを直接見ても読めない |
| AIへ送る文章 | 送る直前に氏名を機械的に置き換える。対象の子は「本児」、他の子は「お友だち」になる |
| 置き換えの検証 | 過去の日報1,978件を対象に、実名が残っていないことを確認済み |
| 誰が何をしたか | 生成・確定・転記の操作を記録として残す |
画面には実名が出ます。職員が使うものなので当然です。実名が出るのは画面まで、外部のAIには送らない。この分け方が要点です。
どこまでの構成にするかは、扱う情報と事業所の方針によります。開発を相談するときは、「利用者の氏名や障害特性が外部にどう渡るのか」を必ず質問してください。ここに明確に答えられない相手とは進めない方がいいです。
導入の手順。4ステップ

01 どの書類に何分かかっているかを測る
1週間でいいので、書類ごとの所要時間を記録してください。支援記録1件が何分か、個別支援計画1人分が何分か、それが月に何件発生するか。
このとき、職員ごとに分けて測ってください。ベテランが何分で、入って半年の職員が何分か。ここに開きがあるほど、型を渡す効果が大きく出ます。加えて、児発管が手直しに使っている時間も測っておくと、事業所全体で失われている時間が見えます。
この数字がないまま相談すると、開発側も効果を試算できません。逆にこれさえあれば、投資に見合うかどうかがその場で判断できます。
02 最も時間を食っている書類を1つだけ選ぶ
複数を同時にやらないでください。1つに絞ると開発側も具体的に作れて、金額も期間も読めます。
多くの事業所では、件数の多い支援記録か、1件あたりが重い個別支援計画のどちらかになります。育成の効果も取りに行くなら、発生件数が多い書類から始める方が有利です。手本に触れる回数が多いほど、覚えるのが速いためです。
03 いまのAIで下書きが作れるか試す
開発を発注する前に、手元で試せます。実在の利用者情報は使わず、架空の内容でメモを書き、それを文章にしてもらう。出てきた下書きが実用に耐えるかを見ます。
ここで「これなら直せば使える」と感じるかどうかが最初の分岐点です。感じないなら、まだ開発する段階ではありません。
04 事業所の書き方に合わせて型を詰める
ここから先が開発の領域です。事業所ごとの書き方の作法、使う語彙、避けたい表現を反映させていきます。前述のとおり、実際に時間がかかるのはこの部分です。
そしてこの工程に、いちばん経験のある職員に入ってもらってください。ここで写し取るのは、その人が頭の中に持っている書き方だからです。ベテランの時間を使うことになりますが、一度きりです。以降はその型が、新しく入る職員全員に自動的に渡り続けます。
ここを丁寧にやるかどうかで、現場が使い続けるかどうかが決まります。出てくる下書きが自分たちの書き方と違うと、直す手間が増えて結局使われなくなります。
費用と期間の目安
弊社の場合の金額です。いずれも税込です。
| 範囲 | 費用 | 期間 |
|---|---|---|
| AI業務診断(書類の棚卸しと仕分け) | 無料 | オンライン30分 |
| 1書類・1画面の開発 | 330,000円〜 | 1ヶ月前後 |
| 複数書類・既存システム連携 | 100万円前後 | 1.5〜2ヶ月 |
加えて、動かし続けるためのサーバー代とAIの利用料が月額で発生します。処理する件数によって変わるため、診断の段階で概算をお出しします。
投資に見合うかの判断は単純です。削減できる時間 × 人件費と、開発費を比べるだけです。手順01で測った数字があれば、その場で計算できます。このとき、支援員の時間だけでなく児発管が手直しに使っている時間も足してください。ここを入れ忘れると、効果を半分しか見積もれません。費用の考え方はAI開発の依頼記事に詳しく書きました。
なお、AIや業務システムの導入に使える補助金が用意されている場合があります。ただし申請すれば必ず採択されるものではなく、受給を保証できるものではありません。採択されなかった場合に自己資金で進めるかを先に決めておいてください。
やってはいけない4つ
01 AIが書いた計画をそのまま使う
前述のとおり、個別支援計画は責任の所在がはっきりしている書類です。児発管が中身を確認して直す工程を必ず残してください。ここを省略した時点で、時間の削減より大きなものを失います。
02 新人に渡して、教えるのをやめる
これが一番やってはいけない形です。「AIが書いてくれるから、書き方の指導は要らない」としてしまうと、新人は直す判断ができないまま提出するだけの人になります。育つどころか、止まります。
AIが渡すのは書き方の手本であって、なぜそう書くのかの理由ではありません。理由を教えるのは人の仕事のままです。教える内容が「書き方」から「なぜそう書くか」に上がると考えてください。ここが変わるだけでも、教える側の負担はかなり軽くなります。
03 現場に見せずに導入を決める
経営層と開発会社だけで決めて、完成してから支援員に渡すと使われません。開発の途中で一度、実際に書類を書いている人に触ってもらってください。「この項目は要らない」という一言が最も価値のある情報です。
04 全部を一度に自動化しようとする
支援記録も計画もモニタリングも連絡帳も、と広げると、完成までの期間が延びます。その間に制度改定や運用の変更が入り、完成時点で現場と合わなくなることがあります。
1つの書類で効くと確認してから広げてください。順番を守った事業所の方が、結果的に速く広がります。
まとめ。書類の話は、育成の話でもある
書類が減らないのは、システムの選択を間違えたからではありません。業務支援システムが埋めているのは入れ物で、時間を使っているのは中身を考えて文章にする部分だからです。
そしてその工程は、新人とベテランの差が最も大きく出る工程でもあります。書いたものは保護者が読み、行政が見て、最後は請求の前提になる。だから水準が要求され、水準が要求されるから経験差がそのまま時間になります。
そこを埋めると、2つのことが同時に起きます。書類の時間が減ること。そして、新人が事業所の書き方に毎回触れながら仕事をするようになることです。弊社の実績では、書類作成時間は約80%減っています。
ただし、支援の中身を決める判断はAIに渡さないでください。AIに任せるのは文章にする作業まで、決めるのは人。教えることをやめないでください。この2つさえ守れば、福祉の現場でAIは安全に効きます。
そのうえで、減った時間をどこへ戻すかを先に決めてください。弊社としては、子どもと接する時間に戻すことを最初に置くべきだと考えています。それが本来の仕事だからです。
まずは1週間、書類ごとの時間を職員別に測るところから始めてください。その数字があれば、開発する価値があるかどうかは自分で判断できます。
