「AIを入れて、効果はあったんですか」。役員会や銀行との面談で聞かれて、答えに詰まったという話をよく伺います。
中小機構が全国の中小企業1万社を対象に行った調査(2026年3月公表)では、AIを導入した企業の83.2%が「業務効率化/作業時間の短縮」に効果があったと答えています。効果を感じている会社は多い。ただ、それが何時間で、いくらになったのかを数字で示せるかは、別の問題です。
先に結論を書きます。計算は3ステップで終わります。難しい式は要りません。時間を測って、金額に直して、費用で割る。それだけです。
この記事では、その3ステップと、社内を通すための資料の作り方、そして効果が出なかったときの見切りの付け方までを書きます。金額の相場そのものは別の記事にまとめているので、ここでは「返ってくるかどうかの判断」に絞ります。
効果を感じていても、金額で言えない理由
先に、測れない理由を潰しておきます。相談を受けていて、詰まる場所はほぼ3つです。
| 詰まる場所 | 実際に言われること | 対処 |
|---|---|---|
| 導入前の数字がない | 「前がどれくらいだったか分からない」 | これが最大の原因。入れる前に測るしかない |
| 時間を金額にできない | 「30分減ったと言われても、いくらか分からない」 | 時給を決めれば出る。後述 |
| 効果が分散している | 「あちこち少しずつ楽になったが、まとめられない」 | 1業務に絞って測る。全部を足そうとしない |
1行目が本質です。導入前の数字は、導入した後には二度と取れません。ここを逃すと、あとから何をしても正確には出せなくなります。
だから最初に確かめてほしいのは、「その作業に、いま何分かかっているか」です。弊社も最初の打ち合わせで、まずここを伺っています。答えられないなら、導入を決める前に測るところから始めてください。
計算は3ステップで終わる

STEP1 時間を測る
対象の業務が、1回あたり何分かかっているかをストップウォッチで測ります。1回だけで構いません。
そこに回数を掛けます。
1回の時間 × 月の回数 × やっている人数 = 月の総時間
例です。請求書の入力が1枚8分、月に120枚、担当が1人なら、8分 × 120枚 = 960分 = 月16時間です。
ここで大事なのは、「体感」ではなく実測を使うことです。体感は必ず実際より短く見積もられます。探す時間や、席を立つ時間が抜け落ちるからです。
STEP2 金額に直す
時間に時給を掛けます。使うのは給与額ではなく、社会保険料などを含めた会社の負担額です。
年収 × 1.3 ÷ 年間労働時間(およそ1,900時間) = 1時間あたりの会社負担
年収400万円の社員なら、400万 × 1.3 ÷ 1,900 ≒ 2,700円が1時間あたりです。1.3は社会保険料の会社負担分などを見込んだ係数で、正確を期すなら自社の実績で置き換えてください。
先ほどの例に当てはめます。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 月の総時間 | 16時間 |
| 1時間あたりの会社負担 | 2,700円 |
| 月あたりの人件費 | 43,200円 |
| 年間 | 518,400円 |
この業務に、年間およそ52万円払っているということです。多くの会社で、ここを出した瞬間に話が変わります。「そんなにかかっていたのか」となるからです。
STEP3 回収年数を出す
最後に、削減できる見込みと費用を突き合わせます。
(初期費用) ÷ (年間の削減額 − 年間の維持費) = 回収年数
同じ例で、初期330,000円・月額の維持費なし・削減率を6割と見込んだ場合です。
| 項目 | 数字 | 考え方 |
|---|---|---|
| 年間の人件費 | 518,400円 | STEP2で出した金額 |
| 削減率の見込み | 60% | 控えめに置く。後述 |
| 年間の削減額 | 311,040円 | 518,400 × 0.6 |
| 初期費用 | 330,000円 | — |
| 回収年数 | 約1.1年 | 330,000 ÷ 311,040 |
1年ちょっとで元が取れる計算です。この数字が出れば、社内でも銀行でも説明できます。
削減率を何%で置くか。ここで嘘をつかない
計算のなかで、一番ごまかしが入りやすいのが削減率です。ここを高く置けば、どんな投資でも回収できる数字が作れてしまいます。
業務の性質で分けると、考え方の例はこうなります。数字は仮置きなので、実際に試して測った値に置き換えてください。
| 業務の性質 | 削減率の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 転記・並べ替えだけ。判断が入らない | 70〜80% | 確認だけが残る。弊社の書類作成の事例では約80%減 |
| 下書きを作って人が直す | 50〜60% | 直す時間が残る。多くの業務がここ |
| 判断が半分以上を占める | 20〜30% | 調べる時間が減るだけ。判断は減らない |
| 毎回条件が変わる交渉ごと | 0% | やらない方がよい |
迷ったら低い方に置いてください。理由は2つあります。
1つ目。高く置いて達成できないと、次の投資が通らなくなります。1回目で「言っていたほど効かなかった」となると、2回目の稟議が動きません。
2つ目。低く置いて超えると、社内での評価が上がります。同じ結果でも、見え方が正反対になります。
そして忘れやすい費用が1つあります。教える時間です。導入直後は現場が慣れないので、しばらく時間が増えます。ここを見込まずに計算すると、初月で「効果がない」と結論づけてしまいます。
社内を通す資料は、A4で1枚あればいい
稟議や役員説明で使う資料です。凝ったものは要りません。次の6行が埋まっていれば通ります。

| 書く欄 | 記入例 |
|---|---|
| 対象の業務 | 受け取った請求書の会計ソフトへの入力 |
| いまかかっている時間 | 1枚8分 × 月120枚 = 月16時間(実測) |
| いまかかっている費用 | 年間518,400円(時給2,700円換算) |
| 導入後の見込み | 削減率60%と想定 → 年間311,040円の削減 |
| かかる費用 | 初期330,000円(税込)/月額の維持費なし |
| 回収年数 | 約1.1年 |
この形にすると、反対意見にも答えやすくなります。よく出る2つを挙げます。
「本当にその時間かかっているのか」 → 実測した数字なので、測った日を答える
「削減率60%の根拠は」 → 控えめに置いた理由を説明する。低く置いてあることが強みになる
もう1つ、資料に入れておくと効くものがあります。その業務を担当している人の名前と、その人が何と言っているかです。「毎月2日つぶれています」という現場の一言は、数字より効くことがあります。
時間以外の効果は、どう扱うか
「ミスが減った」「属人化が解消した」といった効果は、金額に直しにくい。ここは無理に金額化しないことをお勧めします。
無理に数字を作ると、根拠を聞かれたときに崩れます。代わりに、回数で書いてください。
| 効果 | 金額化しない書き方 |
|---|---|
| ミスが減った | 「入力ミスによる再作業が、月3件から0件になった」 |
| 属人化が解消した | 「この作業をできる人が1人から4人になった」 |
| 締めが早くなった | 「月次の締めが5営業日から2営業日になった」 |
| 残業が減った | 「月末の残業が平均12時間から4時間になった」 |
回収年数は時間の削減だけで計算し、それ以外は「加えて、こうなりました」と別枠で書く。この分け方にすると、数字が正確なまま、効果は漏れなく伝わります。
効果が出なかったときの見切り
ここも書いておきます。全部がうまくいくわけではありません。
止めどきを決めておかないと、効いていない契約が惰性で続きます。お勧めは、導入から3か月後に、同じ方法でもう一度測ることです。
| 3か月後の状態 | 判断 |
|---|---|
| 想定の8割以上減っている | 続ける。次の業務に広げる |
| 半分程度は減っている | 続ける。使い方の問題か、対象の選び方の問題かを切り分ける |
| ほとんど変わっていない | 止める判断をする。原因を確かめて、別の業務で試す |
| そもそも使われていない | 止める。現場が使わない理由を聞くところからやり直す |
3行目と4行目は、判断が違います。使ったうえで効かなかったのか、そもそも使われていないのか。後者はツールの問題ではないので、同じものを別の形で入れ直しても同じことが起きます。
件数の少ない業務は、この計算をすると開発費を回収できないことがすぐ分かります。1件30分かかっていても、月に数件なら合計は数時間です。計算しておけば、作らないという判断も早くできます。
まとめ。入れる前に測る。その数字は後から取れない
計算は3ステップです。時間を測る、時給を掛けて金額に直す、費用で割って回収年数を出す。難しい式は要りません。
一番大事なのは導入する前に測っておくことです。導入前の数字は、あとからは二度と取れません。ストップウォッチで1回測るだけで足ります。
削減率は控えめに置いてください。高く置いて外すと次の投資が通らなくなり、低く置いて超えると評価が上がります。同じ結果でも見え方が変わります。
そして3か月後に、同じ方法でもう一度測る。効いていなければ止める。効果を感じることと、金額で示せることは違います。稟議や銀行で聞かれるのは後者です。
月額のツール予算をどう組むかはAI予算の記事、開発費の相場と頼み方はAI開発を依頼する前にの記事にまとめています。
